大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和31年(ラ)61号 決定

抗告人 鈴木忠治

主文

本件抗告はこれを棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は。別紙記載のとおりである。

本件記録ならびに抗告人提出の甲第一号証によると、つぎの事実が認められる。

一、本件債権者短保仁吉(以下単に債権者という)は、本件債務者鈴木忠直(以下単に債務者という)に対し昭和二八年一〇月九日頃金三〇、〇〇〇円を利息の定めなく弁済期を二、三日後として貸与したが、債務者が弁済期にその支払をしないので、債権者は、右債権につきその強制執行を保全するため小樽簡易裁判所に対し債務者所有の本件不動産の仮差押の申請をなしたところ、同年一二月一九日同裁判所は、右申請を容れ、これが仮差押決定をなし、ついで同年同月二四日その旨の登記がなされたこと。

二、債務者は、右仮差押執行後である昭和二九年三月一六日本件不動産を抗告人に贈与し、同日同人のためその所有権移転登記がなされたこと。

三、債権者において、債務者を相手取り前記債権金三〇、〇〇〇円および債権者が債務者のため他に立替支払つた立替金債権計金九一、四〇〇円以上合計金一二一、四〇〇円およびこれに対する昭和二九年一月八日以降完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める訴を札幌地方裁判所小樽支部に提起し、昭和二九年三月三一日全部勝訴の判決を受け、その判決は、同年四月一五日頃確定したこと。

四、債権者は、昭和二九年四月二二日右判決正本に執行文の付与を受け、これに基ずき同年四月二四日札幌地方裁判所小樽支部に対し本件不動産につき強制競売の申立をしたところ、同裁判所は、同年四月二六日前記債権合計金一二一、四〇〇円およびこれに対する昭和二九年一月八日以降完済まで年五分の割合による損害金の弁済に充てるため本件不動産につき競売手続を開始する旨の決定をしたこと。

されば、債権者が、その債権を保全するため、債務者所有の本件不動産につき仮差押をなし、その旨登記を経由した以上、債権者はその後債務者が該不動産を第三者に移転した後といえども右仮差押命令の被保全債権の支払を命ずる債務名義に基ずき、その支払を求めるため右不動産に対して強制執行をなし得るは勿論、その債務名義の内容が、被保全債権と同時にその以外の債権の支払を命ずるものである場合は、なおこれに基ずき、前示立替金債権の弁済を求めるためにもこれに対し強制執行をなし得るものと解すべきである。けだし、仮差押執行は、その目的物全部についてなす任意処分を制限する効力を有するものであるから債務者の前示処分は、債権者に対する関係においては無効であつて、仮りに、その不動産の価格が仮処分命令の被保全債権額を越える場合であつても、その無効の範囲は、右不動産の全部に及ぶからである。

それ故、債務者が抗告人主張のとおり前記被保全債権の元利金の弁済をなすに至つたとしても、それのみでは本件競売開始決定を目して違法ということができないから抗告人の主張はこれを採用できない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 猪股薫 水野正男 安久津武人)

昭和二九年(ラ)第六一号

抗告人 鈴木忠治

申立の趣旨

原決定はこれを取消す。

債権者短保仁吉、所有者鈴木忠治間の札幌地方裁判所小樽支部昭和二十九年(ヌ)第一号不動産強制競売開始決定はこれを取消す。

との御裁判を求む。

申立の理由

一、別紙目録〈省略〉記載の不動産は訴外鈴木忠直の所有であつたところ、右鈴木忠直は相手方より昭和二十八年十月九日金三万円也を利息の定めなく弁済期を二、三日後の定めで借用した。

二、然るに右訴外人は期限に支払をしなかつたので、債権者たる相手方は右訴外人が当時所有して居つた別紙不動産に対して小樽簡易裁判所昭和二十八年(ト)第二七号不動産仮差押命令申請事件の仮差押命令に基き仮差押を為され、其登記は昭和二十八年十二月二十四日に為された。

三、然るに右訴外人鈴木忠直は右仮差押の為された別紙不動産を昭和二十九年三月十六日鈴木忠治(申立人)に贈与して同日所有権移転登記を完了した。

四、然るに拘らず相手方は右仮差押を為したる貸金債権金三万円也を超えたる

一、金一万八千円也

昭和二十八年十一月二十七日紺谷運栄に対する立替

二、金九千四百円也

昭和二十八年十一月二十三日及同年十二月二十三日の両度に佐藤富太郎に対する立替金

三、金二万八千円也

同年十月二十日坂口キクに対する立替金

四、金一万八千円也

同年十二月五日内田ミツエに対する立替金

五、金一万八千円也

同二十九年一月五日宮本清二に対する立替金

合計九万一千四百円を加えたる十二万一千四百円にて強制競売の申立を為したのである。

五、乍併相手方が訴外鈴木忠直に対して為したる仮差押は貸金三万円に過ぎない。其後申立人が所有権を取得したのであるから仮差押の効力は金三万円に対しては所有者が変つても有効であるが仮差押をしなかつた立替金九万一千円に対して所有者が申立人に変つた以上強制執行は許されないものである。尚而も仮差押を金三万円也の貸金は元利金合計金三万八百七十五円也を昭和二十九年七月八日札幌法務局金第一一五号を以て弁済供託を為し、相手方は既にこの金員を受領して居るのである。

六、或は本件の如き理由の場合に於ては抗告申立人より相手方に対して第三者異議の訴によりて本件の開始決定を排除するのが至当ではないかとも考えられるが而し申立人は開始決定に対する異議によりても開始決定を取消し得るものと信ずるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例